ドアを開けたとたん、中から漂ってきた冷気に肌が震えた。
主のいない部屋はかびくさく、しんと冷え切っている。使われることのない家具には白い布がかけられ、そちこちに蜘蛛の糸が目立った。
私は部屋を横切り、火のない暖炉のマントルピースから懐中時計を取り上げた。
日に一度、こうやって時計を巻きながらマントルピースの上の家族写真を眺めるのも、何度目になるだろう。
色あせかけた写真の中では、父母、そして私たち三姉妹が微笑んでいる。
父は椅子にかけた母の隣で、母の肩に手を置いて立っている。私たちはその足元に座ってとりどりにスカートを広げていた。
このときのドレスがもうどこにもないように、この写真の幸福な家族はもう存在しない。
この家を家庭らしくしてくれていた人は、そうであれと心尽くしてくれた人も、もういない。
姉の、少し困ったような笑顔に目が止まる。
いろいろありはしたけれど、それでも姉は姉だった。もちろん家族として愛していた。
けれど私はあの日、彼女に言ってはならないことを言ってしまったのだ。
悔やんでも悔やみきれないあの出来事の後で、姉はいなくなった。
きっと甘えていたのだと、今なら言える。自分の感情を、割り切れない気持ちをただ、八つ当たりのようにぶつけてしまっただけなのだと。
今になってわかったのは、姉も自分自身を責めていたことだ。それを、あのときの私は理解できなかった。しようともしなかった。
あんなことを言わなければ、姉はここにいたかもしれない。
でも、取り返しはつかない。
彼女はもういないのだから。
あの日々を取り返すことはおろか、謝って許されることももうない。私はそのことを思い知るために毎日ここに来ているような気さえする。
手ごたえが重くなってくる。
巻き上げ終えた時計を、私は元通りにマントルピースの上に置いた。
私は明日、家を出る。
「……さようなら、アリス姉さん」
写真に向かって囁きかける。
あなたの残した時計を巻くことはもうしない。ロリーナ姉さんの花を世話することも、もう。
私はもう、自分の道を選んだのだから。
あなたたちのように、逃げはしないと決めたのだから。
「さよなら」
私は頬の涙をふいた。もう二度と、このことで泣きはしないと心に誓いながら。