text index>あまくてもにがくても
あまくてもにがくても

結局今日もここか、と孟徳はうんざりしながら仮寝の床に近づいた。
 寝る場所などどうでもいいといえばどうでもいいことだが、この場所にあまり良い印象を抱けないのは仕方のないことだ。
 寝じたくをさせた侍女が下がるのを待たず、孟徳はばったりと寝台に倒れ込んだ。目を閉じると、目の奥にしつこく居座る痛みがひときわ鮮やかになった。
「こんばんは」
 痛みに気をとられていたせいか、一瞬反応が遅れた。
 花がいる。
「どうしたの? こんなに遅くに」
 花は静かに答えた。
「元譲さんに連れてきてもらいました」
 何を聞かされたのか、花は寝台から数歩離れた位置にひっそりと立っている。
「こんな遅くまでお仕事って、知りませんでした」
 心配そうな声が近づいてくる。
「いつもじゃないよ。今日はちょっと遅くなっただけ」
「今日だけ、ですか?」
「最近は忙しいからね」
 花に気遣われること自体は心地良いが、すっかり甘えてしまうのにはどうもまだ抵抗があった。
「元譲から何か聞いた?」
「孟徳さんが疲れすぎて眠れないみたいだって。だから、そんなことがまたありそうなら、ここに連れてきて欲しいってお願いしたんです。……私に何かできることはありますか?」
「特には、ないかな」
 そっけなく聞こえないように気をつけながら答える。
 こんな夜、今まで孟徳がどう己をなだめて眠りを稼いでいたか、たとえ見ないふりをしていたとしても、元譲が知らないはずはない。
 その元譲がここへ花を連れてきた。
update : 12.08.17
text