「ねえ、花ちゃん」
突然訪ねてきた孟徳は、何気ない調子で花に言った。
「なんですか?」
花は届いたばかりの木簡から顔を上げた。
「最近、勉強熱心みたいだけど、どうしたの?」
孟徳は後ろから、座っている椅子の背ごしに花を包むように抱いてくる。
いつかは聞かれると思っていた問いだった。
「何もしないでいるのは苦手なんです」
「そう」
「元の世界にいた時より、勉強するのが楽しいって思えるんです」
嘘はついていない。
必要な知識とめぐり合うために、そしてそれを十分に理解して活かすためにする勉強は、目的がある分やりがいがある。
「花ちゃんは真面目だね」
孟徳が笑う気配がする。
「頑張る君もかわいいけど、もっとのんびりすればいいのに」
声が低くなった。
「どうせ時間はいくらでもあるんだから」
濁りがにじんだささやきに、花はとっさに返事をすることができなかった。
「ほんとうは何をするつもりなのかな?」
「今は何も……」
「そうだね。今は何もしてない。誰かに文でも書くのかと思えばそんなことはないようだし」
「逃げるつもりなんて、ありません」
少なくとも今はまだ無理だ。
声には出さなかったはずなのに、孟徳には伝わってしまったらしい。肩にかかる重みがいきなり増した。
「だめだよ。変なこと考えちゃ」
花は返事をしなかった。
「君はずっとここにいるんだから」
耳元のささやきは粘くて甘い。そのまま耳を唇でなぶられて、体に震えが走った。
「くすぐったい?」
うなずくと、花を抱きしめていた腕がゆるんだ。ほっと息をついた瞬間、襟の合わせをつかんだ手が、強引に服を引き下ろす。
「痛っ!」