花が今世話をしているのは、これまた花専用の庭だ。
表の庭は、初めから宮中で見たように美しく作りあげられ整えられていたが、そこから少し離れた日当たりのいい空地は花のためにと空けられていた。
初めて邸に来た日、何も植えられていない場所に花を案内した孟徳は空地を指さした。
「ここは君が好きに使えるようにしておいたよ。好きな物を植えるといい。もちろん植えなくてもいいし、誰かに世話をさせてもいい」
花は以前に一度、何かを育ててみたい、と孟徳に訴えたことがあった。
仕事がなければ一日は長くて寂しい。
迷い猫の親子がしばらく部屋にいたことがあったのだが、仔猫が巣立った後、いつのまにか親猫も戻って来なくなった。寂しさについねだってしまったことを、孟徳は覚えていてくれたのだ。
「動物を飼ってもいいけど、花も植えたいって言ってたよね」
「ありがとうございます」
「珍しい花の種でも持ってこさせようか」
「ふつうの花がいいです。この土地に合ったのが」
花が言うと、孟徳はなぜか嬉しそうに微笑んだ。
その後、花は庭師と話し合い、部屋に活けられる花や花木を植えることから始めた。
それから数年。その庭は、まさか花畑だけでなく畑ができるとは思わなかった、と孟徳にたびたび冷やかされるようなものになっていた。
(中略)
「おいで」
呼ばれるがままに、孟徳の膝の上に腰を下ろす。
「ああ疲れた」
孟徳はいつものように軽く嘆いてみせた。
「花ちゃんは元気だった?」
「はい」
「そう」
そう言ったきり、孟徳は花をじっと抱いている。
「お疲れさまです」
「うん」
こんなに消耗した孟徳を見るのは初めてかもしれない。花はそっと孟徳の頬をなでた。
「ありがとう」
孟徳は花の手首を捕え、手のひらに軽く口づけた。
「ごめんね、返事も書けなくて」
言おうとしていたことを先に言われてしまった。なんと答えてよいのかわからず、花はうつむいてしまった。
「手紙、飽きちゃった?」
「飽きてないです」
優しい問いかけが心苦しかった。
「俺のせいだよね」
「そんなことは……」
孟徳が忙しい間、自分はここで時間に追われない生活をしていたのだ。書けなかったのは孟徳のせいではなく、自分のせいだ。
「返事がないのに書くのは難しいものだし」
「ごめんなさい」