その日、銀の大樹はひどく騒いでいた。
銀の葉たちが、ざわざわとささやきあっている。
細い枝先は、風を受けたように小刻みに揺れている。
「……」
銀の大樹の根元に、ルネは立っていた。
大樹が、緊張している。
大樹を守る聖域の空気も張りつめて、肌にひりひりと痛いほどだ。
「……大丈夫?」
こんな状態のこの木を、ルネは今まで見たことがなかった。
葉ずれの音はますます高い。
ルネが思わず両手で耳をふさごうとした時。
突然、ざわめきが高く冴えた音の流れに変わった。
ふわ、と空気が揺れる。
白銀に燃えたつような輝きが大樹の内側からあふれ出てきた。
それは周りの空気をたちまち銀色に染めた。樹からこぼれた光の粒たちは軽やかに舞い上がり、次々に空へと還っていく。
銀の大樹はまるで、喜びにうち震えながら歌っているようだ。
ルネは、その幹に手を触れた。
温かい。
甘いようなうねりが、手のひらから体内へぐいぐいと流れこんでくる。
(どうしたの?)
体の内側から、なだれこむ銀色に染め上げられそうだ。
銀の大樹は、ルネの呼びかけには答えず、ただ歌い続けている。
ルネは目を閉じて、銀樹の歌に身を委ねた。詠唱にも似たゆるやかなリズムが不意に高まり、大樹の幹が胴震いするように震える。
その震えがルネの体を走り抜け、空気がどよめいた。
(略)
「びっくりしたよ」
「ごめんなさい」
アンジェリークはベッドの中で小さくなった。
「ああ、謝らないで。怒ってるんじゃないんだから」
ベッドの脇に座ったルネは、アンジェリークに笑いかけた。
「大丈夫?」
「ええ、もう大丈夫だと思います」
「それにしても、ひどい目にあったね」
一応雪は端に寄せられ、道は乾いていたが、聖都の石畳が温かいわけもない。