「ごめんなさい」
元の世界のことは、あまり話したくない。
「気が乗らない? じゃあいいよ」
あっさり諦めてくれてほっとした。
孟徳は聞き上手だ。いいタイミングで質問を投げかけられると、教えるつもりのないことでもつい話してしまうことになる。
「そういえば、最近花ちゃんは外に出たがらないね」
「そうですか?」
「うん。俺はこうしているのも好きだから」
いいけど、と孟徳は花の手に唇を寄せた。
「元の世界の話もあんまりしてくれなくなったし」
「ここにいるんですから、ここでできることの方がいいです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺はいろんなことを知りたいな。君がどんな場所でどんなことをして大きくなったのか。思い出すと寂しい?」
「いいえ。……そうですね、ほんの少しだけ」
「俺が君の話を聞いて、真似をするのは平気?」
「懐かしい、とは思います。やっぱり少しは違っていますけど。でも、たぶん全く同じようにできたとしても、気持ちは変わらない、かな」
「そう」
孟徳の重みがずっしりと肩にかかる。
(中略)
「なあ元譲」
孟徳はむっつりと机に伏していた。
「なんだ」
「最近、あの子が使用人の詰め所に通ってるって知ってるか?」
「誰かが骨を折った、というあれか」
「ああ」
どうして花はあんなに面倒見がいいのだろう。
「使用人にそこまでしてやることはないだろうにな。それに自分ではしごを踏み外したそうだ」
「責任を感じたんだろう」
「あの子に責任なんかない」
孟徳は元譲にかみついた。
「ああもう、彼女を見る男を全員殺してやりたい」
ため息とともに吐き出すと、元譲はあからさまにぎょっとした。
「めったなことを言うな。お前の冗談はしゃれにならん」
「冗談?」
冗談なわけがあるものか、と孟徳は立ち上がった。
「他の女は全部くれてやるけど、あの子だけは誰にも渡さん」
「渡すも渡さないも、相思相愛じゃないのか」
今日も花が使用人を看護していると思うだけで、じっとしていられない。孟徳は部屋の中を歩き始めた。
「優しくて情に厚くて、頭もいい。何より素直だ」
花の美点はそれだけではないが、まあとりあえず元譲にもわかりやすいところを挙げてやる。
「一度彼女と知り合ってしまえば、悪くないしおもしろい、と思う男も多いだろう」
「……そうかもしれん」
「嫌いじゃないと思えば、惚れる可能性はなくはない。興味を持っているうちに欲しくなることもあるかもしれない」
「お前のようにか?」
「元譲」
「すまん」
いちいち腰を折る元譲をにらむ。そういえば元譲も彼女になつかれている。
「お前もあの子には気に入られているみたいだしな」
「いや、俺はそんな気は……」