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ネタバレするのでぶちぶちのコマギレでごめんなさい。
孟花ですがけっこう文若無双な気がします。

(前略)
「いつもの服もいいけど、これからはこっちの服も着て欲しいって言ったら、君はいやかな?」
「いやじゃないです」
「そう?」
 こちらに来てからも制服を着続けていたのは、行動するのに楽だからということもあったし、いずれは戻るのだからという気持ちもあったからだ。しかし、これから孟徳と共に生きることを考えれば、こちらの服に早くなじんだほうがいい。
「嬉しいなぁ。すぐに作らせるからね。どんなのがいい? 好きな色は? こういうのがいいってある?」
 矢継ぎ早に問う声が弾んでいる。
「んーと、私、すぐにひっかけちゃったりしそうですから、あまり飾りとかがついてないほうがいいです」
「そっか。まあ慣れるまではしかたないよね。じゃ、派手なのは嫌い?」
「そうですね。できればあまり派手じゃないほうがいいです」
「君がちゃんと起きられるようになったら着られるようにしておくよ。でも」
 孟徳の指が、花の足の甲を湯の中でするりと撫でた。
「最初は、俺に見せて欲しいな」
「……いいですよ」
「でも君がこっちの服を着たら、みんな残念がるかもしれない」

(略)

「どんな戦いでも勝てば勢いがつく。どんなに少ない軍勢でも勝ち続けられれば兵も増えて、どんどんいい気になる。ま、いいことばかりじゃないけどね」
 それは花にも理解できた。
「だから放っておけない。益州を得たところで、俺を止めるまでは玄徳が止まるわけないのは君にもわかってるんじゃない? ──本当ならもう少しゆっくりできるはずだったんだけど、外れたな」
 孟徳はすっと椅子に座り、花の腰を抱いて膝に座らせた。
「孟徳さん、誰か来たら」
「来ないよ。それに来ても気まずいのは来たほうだし」
「私も気まずいです」
「大丈夫大丈夫」
 何が大丈夫なのかわからないまま、花は抵抗をあきらめた。
「で、さっきの話なんだけど、孔明は恐ろしく優秀だね」
「師匠、ですか?」
「玄徳だけならこんなふうに俺をいらいらさせるようなことは考えつかない」
 きっぱりと言って、孟徳は花を抱えなおす。
「さすが伏竜といったところだね。あーあ、欲しいなあ。ね、花ちゃん、君の師匠はうちの軍には来ないかな?」
「来ないと思います」

(略)

「やっと起きてる時に会えた」
 夜も更けたころ訪ねて来た孟徳は、そう言って笑った。
「起きてる時、って? 私が寝てる時に来てたんですか、ここに?」
 花は驚いて孟徳に尋ねた。
「うん。君のかわいい寝顔を見るだけで元気になれるからね」
 孟徳は恥ずかしいことをさらりと言ってのけた。
「起こしてくれればいいのに」
 会いたいと思っているのは孟徳だけじゃない。
「だめだよ、そんなことしたら。変な時間に起きたら眠れなくなるでしょ?」
「じゃ、私も孟徳さんの寝顔を見にいきます」
 とっさの勢いで言ってしまった言葉を、孟徳は大喜びでつかまえた。
「ほんと? 嬉しいなあ。じゃ、明日からは寝たふりして君が来るのを待っていよう」
「寝たふりじゃだめです。ちゃんと寝なくちゃ」
「でも、せっかく君が来てくれるのに眠っちゃうなんてもったいない」
「そんなこと言うなら行きません」
「そうだね。花ちゃんに会えるのは嬉しいけど、夜にうろうろするのは危ないからおすすめはしないな」
 笑みを含んだ瞳は、灯りをうつして柔らかい。
 心がふっとゆるんだ。
 窓の下に置いた長いすに並んで座る。
 月には薄雲がかかり、小さな灯りはお互いの顔がぼんやりわかるほどの明るさしかない。いつもの部屋が急に狭くなったような錯覚と、隣の孟徳の存在感で、息苦しいような嬉しいような複雑な気分になる。
「ふたりきりみたいでいいね。暗いのも」
 花が落ち着かないのを知っているくせに、孟徳は嬉しそうだった。
「眠い?」


(おまけ)

「元譲さん。私って貧相ですか?」
 そう聞くと、書簡を読んでいた元譲はかわいそうなくらい動揺した。
「な、なぜそんなことを俺に訊く」
update :10.08.17
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