「公瑾殿は見た目がすっきりしておられるからでしょう」
心底うらやましげに言った尚香は暑気のせいか、頬がややピンク色に染まっている。
「人が多ければよけいに暑くなります。私はおいとまいたしましょう」
立ち上がろうとする公瑾の手を、大喬と小喬が両脇から捕まえた。
「行っちゃだめ」
「もうちょっとここにいようよ」
「ですが、もうそろそろ行かなくては」
断りながらも公瑾は立ち上がる勢いを失ったよう座り直した。
その姿に花はふと違和感を覚えた。
なんだか調子がよくなさそうに見えるのは気のせいだろうか。
思い返せば、ここを通りがかった公瑾がやすやすと捕まってしまったことも珍しい。多忙な公瑾は、言葉を交わすことはあっても、ここまでゆっくりしていくことは稀だった。
そっと見上げてみる。
白い、と思っていたが、こめかみから頬にかけて青白くも見えなくもない。背筋はいつもどおりすっきりと伸びてはいるが、どこかこわばっているようでもある。
尋ねてみようか、とも思ったが、花はやめておいた。
公瑾は人に不調を見せるような性格ではない。こうあるべき、と自身が決めた姿以外を人に見せたがらない。
もし体調がすぐれないとしても、今、皆の前ではいつもどおりふるまっているだろうし、尋ねても無駄だろう。
「どうしたのです?」
花の視線に気づいたらしい公瑾は、心配そうに花の額に指先で触れた。
「え?」
「なんだかぼんやりしているようですが……。暑さに負けてしまいましたか?」
「大丈夫です。ちょっとぼうっとしてただけで」
「そうですか」
だが、触れた指先はいつもより冷たかった。
ろくに養生しなかったせいもあるが、いつまでもしつこかった矢傷のことがふと頭をよぎる。
(中略)
次に目を開けた時には、もう部屋は暗くなっていた。
まだ眠り足りないが、頭を締めつけていた痛みはほとんど感じなくなっていた。
「目が覚めましたか?」
ええ、と答えようとした声が乾いたのどにからまった。
「お水、いりますか?」
公瑾は半身を起こして水の入った椀を受け取り、一気に干した。
もう一度頭を枕に戻し、ゆっくりと状況を確認する。もう夜だ、と思ったことに間違いはないが、月の差し込む方向を見るともう宵ではなく、夜半のようだ。花は公瑾が眠りにつく前と同じ姿勢で座っている。
「眠れるようならもう少し寝てください」
「あなたは」
「私は明日もお休みなんです」
「ですが、夜に眠らなければ体が辛いでしょう」
「公瑾さんがそれを言うんですか?」
花は小さく笑った。
「もう夜も遅い。部屋までお送りしますよ」
そう言っても花はかたくなに首を振るばかりだ。こうしてついていてくれるのは嬉しいが、花に無理をさせたくはない。
「私は起きます。これだけ寝てしまっては私ももう眠れないでしょうから」
「私もなんだか目が冴えちゃって」
花は動こうとしない。
「だから、お話でもしませんか?」
こうなっては花につきあうしかない。
「ええ」
公瑾は起き上がり、花と向き合った。
「ありがとうございます。ひさびさによく眠った気がします。ですが、あなたは寝ている私を見飽きたのではありませんか?」