放課後のざわめきが潮がひくように遠ざかっていくのを、私は聞くともなしに聞いていた。
下の図書室にはまだ人が残っているらしい。椅子の音や足音がかすかに届く。
私は膝を理人先輩の枕にされてしまったせいで何もできないでいる。
ふだんなら文句を言っていたかもしれない。でも今日はそんな気にはなれなかった。
ここでこうしていられる時間はもう、あまり残っていない。
もうすぐ来る春、理人先輩はここからいなくなる。
ともかく一年は日本の大学に行くよ、と先輩は言っていた。
夢術士になることも含めて、それからどうするかはまた考える、とも。
遠く離れるわけじゃないのに、少し不安になってしまうのはどうしてだろう。
先輩が私を独り占めしたがることを、少しうっとうしく思う時もあるのに、今は淋しいなんて思ってしまっている。
「ひとつ訊いていい?」
私のひざに頭を預けて眠っていたはずの先輩がぽつりと言った。
「はい?」
思わず見下ろす。
長いまつ毛が目の下にうっすら影を作って、先輩は少し疲れているように見えた。
「こんなことは絶対にないしありえないことなんだけど……」
自分から言ったくせに先輩は口ごもった。
「いやそんなことは許さない、かな」
「……なんですか、いったい」
今なんだかちょっと怖い単語が聞こえた気がする。
「君は二度も俺を忘れていたけれど、もしも」
白いまぶたがゆっくりと持ち上がる。
「俺が君を忘れたら、君はどう思うんだろう」
「え?」
「悲しい? それともせいせいする?」
ほんのり笑いを含んだ声で、先輩はひどいことを言った。
「悲しいだろうな、って思います」
「なんだか他人事みたいだ」
「他人事だったらいいんですけど」
「いいんですけど、って君は疑ってるの?」
私は慌てて否定した。
「そんなこと思ってないです。でも、もう私がいなくても先輩は生きていけるんですよ。他の人を好きになることだって」
「あるわけないよ」
先輩は体を起こして、私の両脇に手をついた。
「でも、君は?」
触れられているわけでもないのに、逃げられない。
怖くはないはずなのに、体がこわばる。
「君は俺じゃない誰かを好きになることはないって言い切れるの?」
私が惑った一瞬の間が、先輩の瞳を暗くした。