指ではじくように放り上げたポップコーンを、ロシュは器用に口で受け止めた。
「すごいわ、ロシュ」
アンジェリークが素直にほめたのに。
「そりゃ、お嬢様にはこんなことはできないよな」
そう言われたのが、ムキになってしまった原因だったような気がする。
「できました!」
しばらく挑戦を繰り返したアンジェリークは誇らしげに両脇の二人を見た。
おでこには当たった。頬にも当てた。見当違いな方向に飛んでいって、ロシュにキャッチされたのもあった。
……そんなこんなで何度挑戦してもなぜか口には入らなかったポップコーンが。
今はアンジェリークの口の中にある。
「お、すげーじゃん」
「良かったね、アンジェ」
お行儀はよくないけれど、普通に食べるのと同じポップコーンなのになんだかとても美味しく思えて、つい笑顔になってしまう。
──ところが。
「きゃ」
いきなりの衝撃に足元がふらりとゆらいだ。
「アンジェ!」
ベルナールの腕にさらうように強く引き寄せられて、アンジェリークはなんとか転ばずにすんだ。
しかし、手から離れたポップコーンのカップは派手に中身をまき散らしながら石畳を転がっていく。
「大丈夫かい?」
「ええ」
ありがとう、と続けようとした時
「…ごめんなさい」
小さな声が聞こえた。
見ると、ロシュの両手に一人ずつ子どもが捕まえられている。
可愛らしいが生き生きと抜け目のない表情がウォードンっ子らしい。
「ったく、気ぃつけろよな。ポップコーンだから良かったけど、コーヒーでも持ってたらお前たちも危なかったんだぜ?」
きっとロシュの顔見知りなのだろう、何か言い返したさそうに子どもたちは口をとがらせた。
「大丈夫よ。でも、気をつけてちょうだいね?」
アンジェリークの言葉に二人はうん、と殊勝にうなずく。
ロシュが肩をすくめて嘆いた。
「オレの言うことは聞かねぇくせにさ」
「放せよ、ロシュ」
これで話は済んだと思ったのか、子どもの一人がつんとあごをあげた。
「ほら、あんま走りまわるなよ」
ロシュの腕から解放された二人は、注意などどこ吹く風で走り去っていく。
「でさ、ちょっと聞きたいんだけど」
呆れたように見送ったロシュがベルナールにひっかかるような視線を向けた。
「あんた、いつまでアンジェとくっついてんだよ」
「あ、たいへん!」
ベルナールが答えるより早く、アンジェリークは散乱したポップコーンを拾い始めた。
かがんだアンジェリークの背中にベルナールが声をかけた。
「どうやら拾わなくてもいいみたいだよ?」
「え、だって」
顔を上げたアンジェリークが目を丸くする。
広場のハトたちがいつのまにかポップコーンに群がっていた。
「ハトさん…ポップコーンを食べても大丈夫なのかしら」
「これくらい、たいしたことないって」
アンジェリークが迷ううち、ハトたちはあっというまにポップコーンを食べつくし、今はもう未練がましく地面をつついているだけだ。
「ほら、あそこで手を洗おうか」
ベルナールに促がされて、水のみ場に向かう。
「ごめんなさい。せっかく買ってもらったのに」
手をふいた後、アンジェリークはベルナールに頭を下げた。
「いいんだ。君に怪我がなくてよかったし、少なくともハトたちは喜んでたみたいだからね」
「でも」
反論しようとしたアンジェリークの口にロシュが自分のポップコーンを放り込む。キャラメルの味が口の中に広がった。
「ベルナールがいいって言ってんだからもういいだろ? それより」
ロシュは口がきけないでいるアンジェリークの手を取った。
「オマケはいるけど、せっかくのデートなんだぜ? そんな顔してないでさ。次行こうぜ次!」
「誰がオマケだって?」
「さぁね。……もう食べた?」
「ええ、ってロシュ!」
ロシュは笑いながら、アンジェリークの手をひいて走り出した。