「なんだかんだ言って、ここが一番落ち着くね」
「そうですね」
銀の大樹の下に陣取った二人は、顔を見あわせて笑った。
午後も半ばを過ぎ、銀色の木漏れ日の輪郭もやさしくぼやけている。
「誰も邪魔しに来られないしさ」
いたずらっぽく目を輝かせたルネは、アンジェリークの頬に唇を寄せた。
「ルネさんって好き嫌いなくなんでも召し上がるんですね」
アンジェリークの作ったクッキーをちびちびかじっていたルネは、小首をかしげた。
「まぁね。でも一応苦手なものもあるんだよ?」
「でも残したりとかはしないんでしょう?」
うーん、とルネはあいまいな返事をした。
「残さない、というより残せないんだ。これも教育のたまもの、って言っていいのかな?」
「教育、ですか?」
「だってさ、悲しい顔をするんだ」
「え?」
悲しい顔と好き嫌いにどんな関係があるのか、見当もつかない。
「マティアスがさ、ボクが何か残したりするとすっごく悲しい顔してこっちを見るんだ。この世の終わり、みたいな」
「それは……」
「きついでしょう?」
「そうですね」
確かに延々とお説教されるよりも辛いかもしれない。
「残せないの、わかる?」
「わかります」
ルネはクッキーの残りを口に放り込み、粉のついた手をぱんぱん、とはたいた。
「でもずるいのはさ、マティアスったら、自分が嫌いなものが出ると食べないんだよ」
「残したりされるんですか?」
「ううん。『今日は一日祈りを捧げます』とかなんとか言う日は、マティアスの嫌いなものが出る日だったりするんだ」
「それは…すごいですね」
嫌いなもののために三食抜くほどの精神力は、アンジェリークにはない。
「でしょ?」
勝てないよね、とルネは遠い目をした。