「きゃっ」
隣を歩くルネにいきなり手をひかれて、アンジェリークは石畳の上で足を滑らせた。
「どうしたんですか? いきなり引っ張るなんて危ないじゃないですか」
どうにか転ばずにすんだものの、まだ心臓がどきどきしている。
「転ぶより危ないことがあるからさ」
アンジェリークの抗議に、ルネは真顔で頭上の窓べに立つマティアスを指さした。
「もしもマティアスがぼーっとしてるときに視界に入ったら……」
ルネはアンジェリークを建物の壁際にいざなった。
「教団長ビームでじゅって焼かれちゃうんだ」
知らなかった? とルネは深刻そうな声でささやいた。
「知りませんでした! みなさん毎日大変なんですね」
聖都には秘密がいっぱいあることは、ルネから聞いて知ってはいた。
が、落とし穴や隠し通路だけじゃなく、こんなことまであるなんて怖すぎる。
気軽に足を運ぶこの場所が、こんなに危険なところだなんて知らなかった。
「だから、ボクにちゃんとついてくるんだよ。ボクほど聖都に詳しい人なんていないんだから」
「はい!」
ふたりは手をつないだまま、そろそろとその場所を離れた。
「出てきなさい」
穏やかだけれど、有無を言わせない口調。
「はい……」
「そなたでしたか」
柱の影から出てきたアンジェリークを見て、マティアスの声がいくぶん柔らかくなった。
「どうしたのです。私の後をつけたりするなど、女王の卵として……」
「ごめんなさい!」
アンジェリークはマティアスに皆まで言わせず頭を下げた。
「ビームがどこから出るか、知りたかったんです」
以前に空想で描いたことはあるけれど、実際にそれが存在するなんて思ってもみなかった。
一応絵では目から出してみたが、もしかしたら出るのは眉間からかもしれないし、指先からかもしれない。
そう考え出すと眠れなくなってしまった。
──だが。
「ビーム?」
マティアスはあっけにとられたように聞き返した。
「はい。教団長ビームです」
マティアスの眉がかすかに寄った。
「教団長ビーム……」
しばらく二人は無言のまま、回廊に立ちつくしていた。
沈黙が重い。
この状況をなんとかしようと、アンジェリークはそっと息を吸い込んだ。
「あの……」
「それをそなたに教えたのは誰ですか?」
「……ルネさんです」
いやな予感がしたが、嘘をつくほどの余裕はなかった。
「そうですか……。残念ながら、私はどこからもビームを出したことはありません」
「え、だって」
「本当です」
「そうなんですか……」
アンジェリークは足元に視線を落とした。
「少し、ルネと話さなくてはなりませんね」
冷ややかな呟きに、アンジェリークはおそるおそるマティアスを見上げ、いつもは穏やかな瞳が荒れる河にも似た危険な色に染まっているのを目撃した。
……もしかしたら、本当はビームを撃てるのかもしれないわ。
アンジェリークは息をのんだ。