ご注意)泡沫BAD後の話&ややグロ?な描写あります&歌妓がでてきます。
地雷原&萌えなしです。
最後の一人が、小さくわなないて絶命した。
──終わったか。
孟徳は知らぬ間に詰めていた息をそっと吐いた。
土の上に転がった「それ」はもはや人の形をとどめていなかった。
あの陰謀に関わりあるとして捕らえられた者たちはその九族まですべて殺し尽くした。
また、首謀者たちへの尋問と責めはさらに酸鼻を極めるものだった。家族の肉を生のまま口にねじ込まれてのどをつまらせていた男の口には歯が一本もなく、舌を抜かれるまでくどくどと孟徳への呪詛を吐き続けていた者の頭にはもはや目も耳も鼻も残されていない。
だが、彼らにいかに罵られようと呪われようと、孟徳は痛痒すら感じなかった。
彼らの表向きの罪状は丞相孟徳の暗殺を謀ったことだ。軍師だったとはいえ家柄もない無官の女を殺したこと程度では彼らに大した罪を問えるはずもない。
しかし彼らが士大夫とはいえ、楽に死なせてやる気は孟徳にはさらさらなかった。
彼女を殺したばかりではなく、罪をなすりつけ保身をはかった時点で彼らにはなんの価値もなくなったからだ。
ただ、苛烈な処分を下しながらも、孟徳にはそれが何か遠くで起きていることのように薄い。
いつも、こうだ。
復讐はできても時は戻らない。
「体であれ物であれ、何も葬らせるな。一片余さず犬に食わせろ」
それだけ命じて、孟徳は踵を返した。
「このような刑は……」
後ろをついてくる元譲が控えめにいさめてくる。
「刑?」
刑ではない、と孟徳は返した。頭が痛む。長く話したい気分にはならなかった。
「そうか。……しかしこんなことをしても彼女は」
「少なくとも、区切りはつく」
振り返る。元譲の、痛々しげにこちらを見る視線が気にいらなかった。
「ひとつ忘れていた」
「なんだ」
元譲の声には、珍しく何かを恐れるような色が混じっている。
「生きたまま食わせると言ったのに、皆死んだな」
「……」
元譲は無言のまま首を横に振り、その場を去っていった。
むなしかった。
何か、あたたかく重みのあるものがが自分のうちから抜け出してしまったようで、地上の何にも手ごたえが感じられなかった。
ただ、今この感情を表に出せないこともわかっていた。
最大の勢力を保っているとはいえ、けして油断のできる状況ではない。
そろそろ攻めるか、と孟徳は他人事のように思った。
「一緒に寝てくれないかな?」
そう頼めば、彼女は何も言わずに夜着をまくって、寝場所を作ってくれた。
そっと滑り込む。
まだ寝入りばなだったのか、布団はまだそれほどあたたまっていない。
「苦しい、わ」
思い切り抱きしめると、彼女は苦しそうに眉をひそめた。
「……そう。ごめん」
謝っても、力を抜くことができない。
この腕の中にいる女にも、恋していたはずだった。
だが今感じるのは、過去の思いのかすれた輪郭だけだ。
「大丈夫よ」
苦しげな息の下から聞こえる言葉も、慰めには遠い。
「……悪い。もう行く」
抱けなかった彼女を柔らかく突き放して、部屋を出た。
頭痛は止まず、吐き気すら呼ぶ。
──ここにいるのは、誰だ。
ふと浮かんだ疑問に、孟徳はその場に立ち止まった。
それからの孟徳は、丞相として変わらぬ日々を送った。
──まるで、何事も起こらなかったかのように。