「まあ予想はしてたけどな」
武将の一人が子龍の肩をぽん、と叩いた。
「なんかっちゃ軍師殿の側にくっついてたもんなぁ」
「そ、それは任務であって」
「いいからいいから、照れるなって」
もうひとりの武将が反論する子龍の顔をにやにやとのぞきこむ。
照れているわけではない。本当のことだ。
そう答えようとした機先を、武将が制する。
「なあ、結婚するってことはもう軍師様とは恋人同士なんだよな」
恋人、同士?
聞きなれない言葉に、子龍は一瞬戸惑った。
「そうですね。そう、なりますね」
こいびと。
恋人。
その単語を自分にしみこませるようにしながら同意した子龍だったが
「じゃ、教えてくれよ」
という言葉の次に発せられた問いに、完璧にかたまってしまった。
「どこまで、というのはどういう意味ですか?」
「どういう意味って、そりゃあ、なぁ」
「なぁ」
武将たちは意味ありげに、しかも嬉しそうに目くばせしあっている。
「前に教えただろう? 好きあった同士がなにするか」
「忘れたわけないよなぁ。なんだかんだ言いながら最後まで聞いてたのに」
期待にあふれた視線に、子龍は頬に血が上るのを感じた。
「……そのようなことを他人に言う必要はないと思いますが」
えええーっ、と男たちの口から非難の声が上がる。
「そりゃないよな」
「俺たちが教えなかったら、今頃まだお手手つないで、ぐらいで止まってるぜ? いんや、もしかして、まだ何もしてない、とか」
「ありえるな。軍師殿も花のさかりだってのに相手が相手だ。お気の毒にな」
ふたりはしみじみとうなずきあう。
変な方向に流れ始めた会話に、子龍の眉がぎゅっとよった。
自分が誤解される分にはかまわない。しかし、彼女が哀れまれるのには我慢できなかった。
「……しました」
ぼそりと子龍が言った言葉に、武将たちは嬉々として飛びついた。
──そして。
「花殿!」
子龍は血相を変えて、花の目の前まで一気に走った。
「子龍くん、そんなに走ってどうしたの?」
「申し訳ありません。大丈夫ですか?」
肩をつかまれた花はきょとんとして、子龍の顔を見返している。
「大丈夫って、私は大丈夫だよ?」
それでも子龍は花の肩を離さなかった。
「知らなかったとはいえ、あなたに苦痛を与えるとは、一生の不覚」
「苦痛? なんのこと?」
とぼけているのか、それとも忘れてしまったのか、花に変化はない。
「あなたもはじめてだ、とおっしゃいましたが」
昨夜確かに、そう聞いたはずだった。
「痛くは、なかったのですか? ……私が昨夜してしまったことは」
花はぱっと顔を赤らめた。
「痛くなかった、と思うよ。びっくりはした、けど」
蚊のなくような声でつぶやく彼女がいじらしくて愛おしい。
子龍はほっとして、花から手を放した。
このままだと、ここで抱きしめてしまいそうだったから。
「でも、どうしてそんなことを聞くの?」
もう一度それが痛くないことを証明してみせた後、花は尋ねた。
「先ほど、私のしたことがされた相手には痛みを伴うものだ、と聞きました」
子龍の中にはまだかすかに疑いがあった。
いくら好きあった同士でも、それは変わらないと彼らは言った。
しかし彼女に無理をしているような様子はない。
「……普通、痛くないと思うよ。今だって」
「そうなのですか? しかし『初めて』だったのでしょう?」
「あ」
何かに思い当たったのか、花はこれまでにないほど真っ赤になった。
「子龍君、あの人たちになんて言ったの……?」
「廊下でって、なぁ」
武将が感慨深そうに呟く。
「ここへ来たときは、まだまだ子どもだったんだぜ? 子龍が大人になるんだから、俺たちも年をとるはずだよなぁ」
もうひとりがあいづちを打つ。
「いくらなんでも、軍師様も気の毒に」
「なんかなぁ」
「若いってすごいよなぁ」
「なぁ」
二人はなぜか、やや疲れたような気分で、それぞれの道に向かって歩を進めた。