(ご注意)
★ゲームから思いついたお話です。教団長の設定が設定集などとは違っています。
聖都セレスティザムは、穏やかな新年を迎えていた。
長い冬のさなか、窓からの景色は一面の雪に覆われてはいるが、昨日からの好天にまぶしいほど白く輝いている。
居室の窓べから、少女はその雪景色をぼんやりと眺めていた。
ふんわりとした張りのある淡い紫のドレスも、柔らかく結い上げられた髪も、朝から着せられた新年の正装のままだ。
室内は暖かくしつらえられ、勢いよく燃える暖炉の火は外の寒さをしめだしている。
でも、少し暑い。
そう思ったアンジェリークが冷気で濡れた窓を開けようとしたとき、ノックの音がした。
「どうぞ」
入ってきたのは、同じ背格好の青年だった。
「ルネさんも、もうお仕事は終わりですか?」
ドレスの裾をさばいて近づいてくるアンジェリークに、ルネはやれやれといったふうに頷いた。
「毎年のことながら、式典が長すぎだよね。やっと終わったよ」
仮面を外したルネは、アンジェリークに向かって大げさに肩をすくめてみせた。
「キミは大丈夫?」
新年の訪れを祝う行事に今年初めて参加した彼女は、はたから見ても痛々しいほど緊張していた。
「ええ、平気ですよ。ルネさんは?」
「ボクには珍しいことじゃないんだし、平気だよ」
ルネはテーブルの上に仮面を置いて、少女に向き合った。
「ボクは毎年毎年同じようなことを言ってるんだけど、みんなよく真面目に聞いているよね。なんなら寝てたっていいのに」
「いいお話だったじゃないですか。皆さん聞き入ってらしたし。だから、わざとそんなこと言っては駄目ですよ」
「……ほんっとに、キミは真面目だね」
いつもの調子でからかったはずだった。
「ルネさんはすごいです。私なんてご挨拶しかできなくて……」
アンジェリークの顔に、ふっと影がさす。
「挨拶だけじゃダメなの?」
「だってなんだか、がっかりさせてしまっているみたいで」
またそのことか、とルネは内心ため息をついた。
「キミは女王で、この世界を滅びから救った。今はそれだけで十分なんじゃない?」
これまでも、二人の間で何度となく繰り返された会話だった。
このままではタナトス、そしてエレボスに滅ぼされるばかりだったアルカディアを、彼女は救ったばかりだ。
なのに彼女には、早くもさまざまな期待が寄せられている。
さらなる幸福を。
理想境の実現を。
その他、アルカディアの各地からの要望はひきもきらない。
「でも、私はあれっきり女王の仕事なんて何もしていないんです。まず何をしていいかもわかりませんし」
どうしたらいいんでしょう、とアンジェリークはうつむいた。
髪を結っているせいであらわになったか細い首筋がルネの視界に入った。
いくら女王だとは言え、まだ自覚も自信も薄い少女に背負わせるには、かけられた期待はあまりに重すぎる。
猪突猛進な彼女を、こんなに頼りなげにしてしまうほどに。